恋のメッセージ
「サプライズとか苦手なんだよ」
彼はそう言ったけれど、私にとっては随分なサプライズで、私は手のひらに落とされた小さな箱と彼の顔を交互に見比べたのだった。
「なに」
「なにって……えっと……これは?」
彼が答えを言わなくてもわかっている。
たぶん、これは、私への誕生日のプレゼントだ。
だから、彼が、「今日誕生日だろ」と、なぜか苦々しく言ったのを聞いて、「そうですよね」と、心の中で返事をしたのだ。そのまま黙ってしまった私に、居心地が悪くなったのか彼はがしがしと頭を掻いた。
「開けねーの?」
「開けてもいいんですか?」
「俺ならすぐに開ける」
そうなんだ。
だったら、今度、彼の誕生日の七月には気をつけなければならない。彼がどういう反応をするか気になるけれど、でも目の前で反応を返されることはなんだか怖いし、すごく恥ずかしい。できれば家に帰って開けてもらえれば、私の精神衛生上とっても良いのだけれど、彼の言葉を聴く限りそういうことはしないのだろう。
貰ったその場で開けるというのだから。
小さな箱を開けると、予想通り、ジュエリーボックスが入っていて、私はさらにどきどきした。
開けようとする指先が微妙に震えていることに気づいて、私はこれ以上ないくらいに緊張しているのだと知った。
開けたボックスの先に、私が想像する最上級のものが入っていたらどうすればいいのか。
どういう反応をしたらいいのか。
もうすでに、私の頭の中は混乱に極みに陥っていて、頭が真っ白になりそうだった。
だからジュエリーボックスからそれを取り出したときに拍子抜けをした。それを言ったら、彼に怒られるかもしれない。
「……あれ……えっと、これは……?」
「ペンダントトップ」
クラシカルなフレアモチーフの小ぶりなシルバーペンダントトップだった。ごつくて男性らしいイメージのあったシルバーアクセサリーよりもユニセックスな雰囲気のあるものだった。
でもどうしてチャームだけなんだろう、そう思って彼の顔を見ると、予想していたのか早口にまくし立てた。
「チェーンはどうしようか迷ったんだけどよ、好みもあるし……ペンダントトップだけど、ジッパーチャームとかストラップとかできるから。蒼樹嬢、シルバーアクセとかしなそうだし」
彼が早口でまくし立てるように言うときは、大抵照れていることが多くて、私はそんな彼を見ながら自然と笑みがこぼれた。
確かにシルバーアクセサリーは持っていないし、つけたことも無い。
逆に彼はそういうものが好きで、彼が良く知るテリトリーの中から、私にあうものを選んでくれたのかと思うと、彼のパーソナルな部分に私を許容してくれたような気がしてうれしくなった。
「ありがとうございます、福田さん」
「おう」
手に取って掲げてみると、中央部にプリンセスカットの小さな石がはめ込まれていた。両脇をブルーダイヤに挟まれて中央にダイヤと三つ埋め込まれていた。それがキラキラと光っていた。
「ユリの紋章ですよね」
「そうだな」
「どうしてこのモチーフを選んだんですか?」
「安直だけど、蒼樹嬢の本名、優梨子だろ?」
優梨子の「ゆり」と紋章の「ユリ」を掛け合わせたのだと聞いて、なるほどと納得した。
フルール・ド・リスはフランス王家のブルボン家の紋章でも使われている紋章だ。ヨーロッパの紋章にも多く使われているし、文明の初期から工芸に使われてきたモチーフの一つだ。シルバーアクセサリーのモチーフでも定番なような気がした。王権や宗教的な意味合いも持っていて、さまざまな解釈がある。
直訳すればユリの花だけれど、本当はユリがモチーフになったわけではなく、アイリス──アヤメを様式化したモチーフだ。
確か、アヤメの花言葉は──
そこまで考えて、私は急激にまた顔に熱が溜まるのを感じた。
彼が果たしてそこまで意味合いを考えて、このモチーフを選んだという保証は可能性としては一パーセントもないだろう。
だけれど、どうしてこう彼は、唐突に、突然に、爆弾を落としていくのだろう。
サプライズが苦手だなんて嘘だ。
意識してしまったら、どうしたって考えてしまうのが私という人間なのに。
「福田さん、私、チェーンとか持ってないので、買いに行きたいんですけど。お店とか知らないので、連れて行ってくれませんか?」
何を驚いた顔をしているのだろう。
まさか、私がこれを身に付けるとは思っていなかったのだろうか。
好きな人から貰ったものを身に付けない女がいるのだろうか。
熱烈な愛のメッセージの詰まったものを、身に付けない人がいるというのだろうか。
「いっしょに選んでくれませんか」
アイリスの花言葉は恋のメッセージ。
あなたを大切にします、という恋のメッセージ。
もう少し時間がたったら、彼にそのことを話してみよう。
そうしたら、盛大に照れて怒るかもしれない。
彼はそう言ったけれど、私にとっては随分なサプライズで、私は手のひらに落とされた小さな箱と彼の顔を交互に見比べたのだった。
「なに」
「なにって……えっと……これは?」
彼が答えを言わなくてもわかっている。
たぶん、これは、私への誕生日のプレゼントだ。
だから、彼が、「今日誕生日だろ」と、なぜか苦々しく言ったのを聞いて、「そうですよね」と、心の中で返事をしたのだ。そのまま黙ってしまった私に、居心地が悪くなったのか彼はがしがしと頭を掻いた。
「開けねーの?」
「開けてもいいんですか?」
「俺ならすぐに開ける」
そうなんだ。
だったら、今度、彼の誕生日の七月には気をつけなければならない。彼がどういう反応をするか気になるけれど、でも目の前で反応を返されることはなんだか怖いし、すごく恥ずかしい。できれば家に帰って開けてもらえれば、私の精神衛生上とっても良いのだけれど、彼の言葉を聴く限りそういうことはしないのだろう。
貰ったその場で開けるというのだから。
小さな箱を開けると、予想通り、ジュエリーボックスが入っていて、私はさらにどきどきした。
開けようとする指先が微妙に震えていることに気づいて、私はこれ以上ないくらいに緊張しているのだと知った。
開けたボックスの先に、私が想像する最上級のものが入っていたらどうすればいいのか。
どういう反応をしたらいいのか。
もうすでに、私の頭の中は混乱に極みに陥っていて、頭が真っ白になりそうだった。
だからジュエリーボックスからそれを取り出したときに拍子抜けをした。それを言ったら、彼に怒られるかもしれない。
「……あれ……えっと、これは……?」
「ペンダントトップ」
クラシカルなフレアモチーフの小ぶりなシルバーペンダントトップだった。ごつくて男性らしいイメージのあったシルバーアクセサリーよりもユニセックスな雰囲気のあるものだった。
でもどうしてチャームだけなんだろう、そう思って彼の顔を見ると、予想していたのか早口にまくし立てた。
「チェーンはどうしようか迷ったんだけどよ、好みもあるし……ペンダントトップだけど、ジッパーチャームとかストラップとかできるから。蒼樹嬢、シルバーアクセとかしなそうだし」
彼が早口でまくし立てるように言うときは、大抵照れていることが多くて、私はそんな彼を見ながら自然と笑みがこぼれた。
確かにシルバーアクセサリーは持っていないし、つけたことも無い。
逆に彼はそういうものが好きで、彼が良く知るテリトリーの中から、私にあうものを選んでくれたのかと思うと、彼のパーソナルな部分に私を許容してくれたような気がしてうれしくなった。
「ありがとうございます、福田さん」
「おう」
手に取って掲げてみると、中央部にプリンセスカットの小さな石がはめ込まれていた。両脇をブルーダイヤに挟まれて中央にダイヤと三つ埋め込まれていた。それがキラキラと光っていた。
「ユリの紋章ですよね」
「そうだな」
「どうしてこのモチーフを選んだんですか?」
「安直だけど、蒼樹嬢の本名、優梨子だろ?」
優梨子の「ゆり」と紋章の「ユリ」を掛け合わせたのだと聞いて、なるほどと納得した。
フルール・ド・リスはフランス王家のブルボン家の紋章でも使われている紋章だ。ヨーロッパの紋章にも多く使われているし、文明の初期から工芸に使われてきたモチーフの一つだ。シルバーアクセサリーのモチーフでも定番なような気がした。王権や宗教的な意味合いも持っていて、さまざまな解釈がある。
直訳すればユリの花だけれど、本当はユリがモチーフになったわけではなく、アイリス──アヤメを様式化したモチーフだ。
確か、アヤメの花言葉は──
そこまで考えて、私は急激にまた顔に熱が溜まるのを感じた。
彼が果たしてそこまで意味合いを考えて、このモチーフを選んだという保証は可能性としては一パーセントもないだろう。
だけれど、どうしてこう彼は、唐突に、突然に、爆弾を落としていくのだろう。
サプライズが苦手だなんて嘘だ。
意識してしまったら、どうしたって考えてしまうのが私という人間なのに。
「福田さん、私、チェーンとか持ってないので、買いに行きたいんですけど。お店とか知らないので、連れて行ってくれませんか?」
何を驚いた顔をしているのだろう。
まさか、私がこれを身に付けるとは思っていなかったのだろうか。
好きな人から貰ったものを身に付けない女がいるのだろうか。
熱烈な愛のメッセージの詰まったものを、身に付けない人がいるというのだろうか。
「いっしょに選んでくれませんか」
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あなたを大切にします、という恋のメッセージ。
もう少し時間がたったら、彼にそのことを話してみよう。
そうしたら、盛大に照れて怒るかもしれない。
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