苺のショートケーキをいただきましょう。
ふわふわのスポンジ生地に、生クリームをたっぷりと塗り付けて、赤くきらりと光るいちごを敷き詰める。その上にまたクリームを重ねて、スポンジ生地で蓋をする。すべてを覆い隠すように純白のドレスをまとったベースに、練り袋から繰り出される優雅なデコレーション、粒のそろったいちごを円周上に配置させる。
クリームのとろけるような甘さと、苺の程良い酸味が、このシンプルで基本中の基本とも言えるケーキの最大限の特徴であり魅力だ。
そんな魅力的なケーキがショーケースの中に鎮座している。他のケーキもあるけれど、ホールサイズにでん!と存在しているそれは、ショーケースの中では明らかに他のケーキを越える存在感を放っている。さしずめ主役といったところで、まるで、舞台に立つ主演女優のようだった。
そんな主演女優に心を奪われ、それを見続ける女と、その女の背中を呆れ返った表情で見下ろす男の姿が、デパート地下の食品売場──いわゆるデパ地下のとあるスイーツショップのショーケースの前にあった。
「おーい……いつまでそうやっているつもりだよ……」
「ま、待ってください……」
「早く決めろよ」
「だから、ちょっと待ってください」
ケーキを見つめていた女──蒼樹紅は、「ああ、どうしよう」と言いながら、視線はばっちり主演女優の苺ケーキに釘付けだった。かれこれ十分以上はショーケースの前に陣取り、ケーキを眺めている。店員も営業スマイルを顔に張り付けながら、若干表情筋をひくりと引きつらせているのではないか。腰を屈めてケーキに見入る蒼樹の姿を見下ろしながら、福田はため息をついた。
手に持っている紙袋は大した重さではないのに、こう待たされるとまるで漬け物石でも持っているのではないかと錯覚してしまうから驚きだ。エメラルドグリーンのショップバックは蒼樹の、黒に金字でショップロゴが刻まれているほうが福田の今日の戦利品である。
その二つのショップバックを右手で持ち、空いた左手はもちろん蒼樹の右手専用だ。
「どうせ、金出すのは俺なんだからさ……あーっと、じゃあ、この苺のショートケーキと、えっと、黒胡麻プリン一個ください」
福田の注文を受けて、店員が殊更にこやかに、「かしこまりました」と言うのを聞き終わる前に、その言葉に被せるように蒼樹が「あー!」と叫んだ。
「もう! なんで勝手に決めちゃうんですかあ!」
「勝手もなにも、ずっとこのケーキ見てたろうが!」
「まだ決めてはなかったのに! あっちのガトーショコラもおいしそうだなー、とか迷ってたのに!」
「優柔不断だから、俺が決めてやったんだよ。」
「優柔不断なんかじゃありません!」
「十分優柔不断だろうが。ケーキ一つまともに決められねえのかよ!」
「ば、バカにしたでしょう!? 今、バカにしたでしょう!」
「あーへいへい、うっさいうっさい」
「むか、むかつくー!」
突進しそうな勢いで福田に詰め寄る蒼樹の頭を、がしっ、と捕まえて「猪突猛進」と呟けば、「離してくださいっ!」と喚いた。いちいち行動が小動物のようで、福田はたまらず吹き出してしまった。
そんな二人に、おずおずとケーキ屋の店員が「あのー……」と声をかける。二人は、ハッとして店員を振り返ると、今度こそ引きつった笑みを浮かべる店員が、困惑と呆れの表情を入り混ぜて二人を見ていた。どうやら店員の鉄壁営業スマイルも、さすがに人目もはばからずいちゃつき始めた福田と蒼樹の前では、脆くも崩れさったようである。
「こちらのショートケーキと黒胡麻プリンでよろしいでしょうか?」
そんな店員の表情にようやく恥ずかしさが芽生えたのか、蒼樹の顔は瞬く間に真っ赤に染まり、先ほどまでの勢いはどこへ消えたのか、「あの」としどろもどろに答えようとする声も、尻すぼみになっていく。
「すいません。それで、お願いします」
そう告げた福田も、少しばかり焦った風に、言葉を詰まらせた。
店員がケーキを箱詰めしている間、福田が蒼樹のわき腹をつつくと、熱の引けない真っ赤な顔で下から福田を睨む。案外と目力のある蒼樹が睨むという行為は、時と場合によっては背筋を縮みあがらせる効果があるのだが、今回は明らかに蒼樹のほうが分が悪い。
そんな風に睨んでも、恥ずかしさを隠すためだと分かりきっているので、福田は睨む蒼樹をにやにやと見つめ返した。
「笑わないでくださいよっ!」
店員の前で失態を繰り返したくないのか、蒼樹が小さな声で怒る。それすらもかわいく思えて、福田はにやつく顔を止められずに、蒼樹に背中を叩かれることになるのは、今から数秒後のことだ。
蒼樹の部屋で紅茶を二人分淹れた。もちろん紅茶はダージリンと決まっている。キッチンからクラシックな大振りの花柄が描かれた盆の上にソーサーとカップを置く。
「皿、これでいい?」
後ろを振り返ると福田が食器棚を開けている。
「ええ、どれでもいいですよ」
「んじゃ、これにしよ。スプーンとフォークも、だな……」
「左の引き出しです」
「おお」
柄にリボンが象っているスプーンとフォークを出して、「蒼樹嬢が好きそうなやつだなあ」と、福田が笑った。
「一目惚れして買ったんです」
「多いよな、蒼樹嬢は。一目惚れで買っちゃいましたってやつ」
「だって可愛いんですもん」
今日もぶらりと立ち寄ったキッチン雑貨のお店でランチョンマットを色違いで二枚買った。実はグラスが揃いで二つあったり、男物の箸があったり、色違いのタオルがあったりする。ついつい雑貨屋に寄ると、福田にはこっちかなとか、これが好きそうだなと思って手にとってしまう。
恋をしているな、と蒼樹は自分の行動に恥ずかしくなるときもしばしばだ。
福田はそれに気づいているだろうか。なにも言わないところを見ると、全くそんなことには考えも及んでいないというところだろうか。それとも、分かっていてあえて口には出さないだけなのか。どちらにせよ、もし福田の口からそのことについて言及があるようなら、蒼樹は顔から火を噴くに違いない。
面と向かって、「これは福田さんのです」なんて、まだ恥ずかしくて言えない。
ローテーブルに広げられたデパ地下で買ってきたショートケーキ。生地はプレーン生地ではなくココア生地だ。白と茶色のコントラストがさらにおいしそうに感じる。一口含んで、なめらかな生クリームの感触に口に甘さが広がる。ココア生地のうっすらとした苦みが中和され、最後にいちごの酸味が口の中ではじける。
甘いだけでも、苦いだけでも、酸っぱいだけでもない。すべてが完璧に一つになりハーモニーとなって、完璧な味に仕上がる。どれかがかけても、どれかが多すぎてもよくない、絶妙なバランス。
それはまるで私のよう。このケーキはきっと、恋する人のケーキなのね。
それはまるで恋そのものだ。一筋縄ではいかない恋の味。甘くもあり、苦くもあり、酸っぱくもあり、けれどそのすべてが恋であり、そのどれかがかけても、どれかが多すぎても恋とは言わない。
そう思ったら、一口食べるごとに胸がキュンとして、手足をじたばたさせたい欲求にかられる。落ち着いていられない。
「んん〜!!!」
だらしなくフォークを口にくわえたまま、「おいひい!」とじたばたしていると、福田が呆れた声音で、「どんだけよ」と呟いた。その声にむっとして、福田の目の前にずいっ、と皿を押し出す。味わって食べてみろとの蒼樹の無言の圧力に、福田は渋々一口クリームを舐めた。それだけでこのおいしさがわかるのか?と疑いの目を向けた蒼樹に、福田は案の定「普通?」と首を傾げたのだ。
蒼樹は思わず髪の毛を掻き毟りたくなるような衝動に駆られる。
これは恋の味なのだ。
やっぱり福田は鈍すぎる。さんざん蒼樹のことを鈍いだとか、天然だとかいうけれど、福田のほうがもっと鈍いだろうに。蒼樹の乙女心など、どうやったらわかるのだろうか。
「このおいしさがわからないなんて、福田さん、乙女心をまるでわかっていないですね! 失礼です」
「なんでだよ。なんでおいしさで、乙女心うんぬんなんだよ。意味がわからないから」
そういうと、さらに一つだけ形よく残されていたいちごをひょいっと口の中に放り込んだ。
「あーっ! 私のいちご!」
「ひどいです!せっかく最後に残しておいたのに!」
「ちんたらしてる蒼樹嬢が悪い!」
もぐもぐと口を動かして、ごくんと音が聞こえた。あっという間に福田の口の中からいちごは消えてなくなってしまい、咀嚼されてしまわれた。
「ケーキに使ういちごってちょっと酸っぱくて、硬いよなー。」
満足げに福田が指についたクリームをぺろりと舐めた。もう福田にはとられまいと、蒼樹はケーキを自分のほうへ引き寄せ、囲い込む。そんな蒼樹の様子に福田は笑う。
「甘い匂いを発しておきながら、ちょっとすっぱいとか、ツンデレかよ。」
「そういうのツンデレって言いますか?」
どういう表現なんですか、それ。と、いちごを食べられた恨みがましい視線を福田に送りながら、蒼樹はケーキを頬張る。
「なーんつーか、蒼樹嬢って……」
いちごっぽい、と言おうとして、自分が恥ずかしいことを言おうとしていることに気づいて、福田は慌てて言葉を濁した。わざとらしい咳払いをして、あらぬ方向を向く。
「え、ちょっと。今、何かいいかけませんでした?」
「なにも、何でもねーよ」
「何ですか! 気になるじゃないですか」
いちごだったら食ってしまおうか。きっと柔らかく、甘酸っぱい。それじゃまるで、エロ親父だな。自分の単純な発想に呆れた。男って生き物は女ほど複雑ではないと思うが、と福田はプリンを一口運んだ。
「福田さんの黒胡麻プリン、おいしいですか?」
「結構」
「ふうん」
「……食べたい?」
「……そんなことないです」
微妙な間を持った返事に、福田はのどの奥で、くくっと笑う。正直になればいいのに。
「女つーのは、甘いものには目がねえのなー」
「そういうものなんです」
笑われた理由がわかっているのか、蒼樹は開き直ってつん、と上を向く。開き直りと素直なのは違うけどな、と福田は笑いながらスプーンでプリンを掬う。
「ま、男だってそうともいえるけど」
「何ですか?」
「甘いものが好きだっていう話」
甘いだけじゃつまらないが、こういう甘い雰囲気が嫌いなわけじゃない。男だって単純に甘いものが好きだ。ふわふわしてクリームみたいに、そしていちごのように甘酸っぱくて、そういちごのショートケーキみたいな、そんな甘いものが男だって好きだ。それにコーヒーみたいなたまには苦い思いもするかもしれないが、それはそれ、男女のつきあいなんて、甘いだけが全てじゃない。
「ほらよ」
スプーンに乗せられたプリンを、蒼樹の小さな口の前に差し出した。
クリームのとろけるような甘さと、苺の程良い酸味が、このシンプルで基本中の基本とも言えるケーキの最大限の特徴であり魅力だ。
そんな魅力的なケーキがショーケースの中に鎮座している。他のケーキもあるけれど、ホールサイズにでん!と存在しているそれは、ショーケースの中では明らかに他のケーキを越える存在感を放っている。さしずめ主役といったところで、まるで、舞台に立つ主演女優のようだった。
そんな主演女優に心を奪われ、それを見続ける女と、その女の背中を呆れ返った表情で見下ろす男の姿が、デパート地下の食品売場──いわゆるデパ地下のとあるスイーツショップのショーケースの前にあった。
「おーい……いつまでそうやっているつもりだよ……」
「ま、待ってください……」
「早く決めろよ」
「だから、ちょっと待ってください」
ケーキを見つめていた女──蒼樹紅は、「ああ、どうしよう」と言いながら、視線はばっちり主演女優の苺ケーキに釘付けだった。かれこれ十分以上はショーケースの前に陣取り、ケーキを眺めている。店員も営業スマイルを顔に張り付けながら、若干表情筋をひくりと引きつらせているのではないか。腰を屈めてケーキに見入る蒼樹の姿を見下ろしながら、福田はため息をついた。
手に持っている紙袋は大した重さではないのに、こう待たされるとまるで漬け物石でも持っているのではないかと錯覚してしまうから驚きだ。エメラルドグリーンのショップバックは蒼樹の、黒に金字でショップロゴが刻まれているほうが福田の今日の戦利品である。
その二つのショップバックを右手で持ち、空いた左手はもちろん蒼樹の右手専用だ。
「どうせ、金出すのは俺なんだからさ……あーっと、じゃあ、この苺のショートケーキと、えっと、黒胡麻プリン一個ください」
福田の注文を受けて、店員が殊更にこやかに、「かしこまりました」と言うのを聞き終わる前に、その言葉に被せるように蒼樹が「あー!」と叫んだ。
「もう! なんで勝手に決めちゃうんですかあ!」
「勝手もなにも、ずっとこのケーキ見てたろうが!」
「まだ決めてはなかったのに! あっちのガトーショコラもおいしそうだなー、とか迷ってたのに!」
「優柔不断だから、俺が決めてやったんだよ。」
「優柔不断なんかじゃありません!」
「十分優柔不断だろうが。ケーキ一つまともに決められねえのかよ!」
「ば、バカにしたでしょう!? 今、バカにしたでしょう!」
「あーへいへい、うっさいうっさい」
「むか、むかつくー!」
突進しそうな勢いで福田に詰め寄る蒼樹の頭を、がしっ、と捕まえて「猪突猛進」と呟けば、「離してくださいっ!」と喚いた。いちいち行動が小動物のようで、福田はたまらず吹き出してしまった。
そんな二人に、おずおずとケーキ屋の店員が「あのー……」と声をかける。二人は、ハッとして店員を振り返ると、今度こそ引きつった笑みを浮かべる店員が、困惑と呆れの表情を入り混ぜて二人を見ていた。どうやら店員の鉄壁営業スマイルも、さすがに人目もはばからずいちゃつき始めた福田と蒼樹の前では、脆くも崩れさったようである。
「こちらのショートケーキと黒胡麻プリンでよろしいでしょうか?」
そんな店員の表情にようやく恥ずかしさが芽生えたのか、蒼樹の顔は瞬く間に真っ赤に染まり、先ほどまでの勢いはどこへ消えたのか、「あの」としどろもどろに答えようとする声も、尻すぼみになっていく。
「すいません。それで、お願いします」
そう告げた福田も、少しばかり焦った風に、言葉を詰まらせた。
店員がケーキを箱詰めしている間、福田が蒼樹のわき腹をつつくと、熱の引けない真っ赤な顔で下から福田を睨む。案外と目力のある蒼樹が睨むという行為は、時と場合によっては背筋を縮みあがらせる効果があるのだが、今回は明らかに蒼樹のほうが分が悪い。
そんな風に睨んでも、恥ずかしさを隠すためだと分かりきっているので、福田は睨む蒼樹をにやにやと見つめ返した。
「笑わないでくださいよっ!」
店員の前で失態を繰り返したくないのか、蒼樹が小さな声で怒る。それすらもかわいく思えて、福田はにやつく顔を止められずに、蒼樹に背中を叩かれることになるのは、今から数秒後のことだ。
蒼樹の部屋で紅茶を二人分淹れた。もちろん紅茶はダージリンと決まっている。キッチンからクラシックな大振りの花柄が描かれた盆の上にソーサーとカップを置く。
「皿、これでいい?」
後ろを振り返ると福田が食器棚を開けている。
「ええ、どれでもいいですよ」
「んじゃ、これにしよ。スプーンとフォークも、だな……」
「左の引き出しです」
「おお」
柄にリボンが象っているスプーンとフォークを出して、「蒼樹嬢が好きそうなやつだなあ」と、福田が笑った。
「一目惚れして買ったんです」
「多いよな、蒼樹嬢は。一目惚れで買っちゃいましたってやつ」
「だって可愛いんですもん」
今日もぶらりと立ち寄ったキッチン雑貨のお店でランチョンマットを色違いで二枚買った。実はグラスが揃いで二つあったり、男物の箸があったり、色違いのタオルがあったりする。ついつい雑貨屋に寄ると、福田にはこっちかなとか、これが好きそうだなと思って手にとってしまう。
恋をしているな、と蒼樹は自分の行動に恥ずかしくなるときもしばしばだ。
福田はそれに気づいているだろうか。なにも言わないところを見ると、全くそんなことには考えも及んでいないというところだろうか。それとも、分かっていてあえて口には出さないだけなのか。どちらにせよ、もし福田の口からそのことについて言及があるようなら、蒼樹は顔から火を噴くに違いない。
面と向かって、「これは福田さんのです」なんて、まだ恥ずかしくて言えない。
ローテーブルに広げられたデパ地下で買ってきたショートケーキ。生地はプレーン生地ではなくココア生地だ。白と茶色のコントラストがさらにおいしそうに感じる。一口含んで、なめらかな生クリームの感触に口に甘さが広がる。ココア生地のうっすらとした苦みが中和され、最後にいちごの酸味が口の中ではじける。
甘いだけでも、苦いだけでも、酸っぱいだけでもない。すべてが完璧に一つになりハーモニーとなって、完璧な味に仕上がる。どれかがかけても、どれかが多すぎてもよくない、絶妙なバランス。
それはまるで私のよう。このケーキはきっと、恋する人のケーキなのね。
それはまるで恋そのものだ。一筋縄ではいかない恋の味。甘くもあり、苦くもあり、酸っぱくもあり、けれどそのすべてが恋であり、そのどれかがかけても、どれかが多すぎても恋とは言わない。
そう思ったら、一口食べるごとに胸がキュンとして、手足をじたばたさせたい欲求にかられる。落ち着いていられない。
「んん〜!!!」
だらしなくフォークを口にくわえたまま、「おいひい!」とじたばたしていると、福田が呆れた声音で、「どんだけよ」と呟いた。その声にむっとして、福田の目の前にずいっ、と皿を押し出す。味わって食べてみろとの蒼樹の無言の圧力に、福田は渋々一口クリームを舐めた。それだけでこのおいしさがわかるのか?と疑いの目を向けた蒼樹に、福田は案の定「普通?」と首を傾げたのだ。
蒼樹は思わず髪の毛を掻き毟りたくなるような衝動に駆られる。
これは恋の味なのだ。
やっぱり福田は鈍すぎる。さんざん蒼樹のことを鈍いだとか、天然だとかいうけれど、福田のほうがもっと鈍いだろうに。蒼樹の乙女心など、どうやったらわかるのだろうか。
「このおいしさがわからないなんて、福田さん、乙女心をまるでわかっていないですね! 失礼です」
「なんでだよ。なんでおいしさで、乙女心うんぬんなんだよ。意味がわからないから」
そういうと、さらに一つだけ形よく残されていたいちごをひょいっと口の中に放り込んだ。
「あーっ! 私のいちご!」
「ひどいです!せっかく最後に残しておいたのに!」
「ちんたらしてる蒼樹嬢が悪い!」
もぐもぐと口を動かして、ごくんと音が聞こえた。あっという間に福田の口の中からいちごは消えてなくなってしまい、咀嚼されてしまわれた。
「ケーキに使ういちごってちょっと酸っぱくて、硬いよなー。」
満足げに福田が指についたクリームをぺろりと舐めた。もう福田にはとられまいと、蒼樹はケーキを自分のほうへ引き寄せ、囲い込む。そんな蒼樹の様子に福田は笑う。
「甘い匂いを発しておきながら、ちょっとすっぱいとか、ツンデレかよ。」
「そういうのツンデレって言いますか?」
どういう表現なんですか、それ。と、いちごを食べられた恨みがましい視線を福田に送りながら、蒼樹はケーキを頬張る。
「なーんつーか、蒼樹嬢って……」
いちごっぽい、と言おうとして、自分が恥ずかしいことを言おうとしていることに気づいて、福田は慌てて言葉を濁した。わざとらしい咳払いをして、あらぬ方向を向く。
「え、ちょっと。今、何かいいかけませんでした?」
「なにも、何でもねーよ」
「何ですか! 気になるじゃないですか」
いちごだったら食ってしまおうか。きっと柔らかく、甘酸っぱい。それじゃまるで、エロ親父だな。自分の単純な発想に呆れた。男って生き物は女ほど複雑ではないと思うが、と福田はプリンを一口運んだ。
「福田さんの黒胡麻プリン、おいしいですか?」
「結構」
「ふうん」
「……食べたい?」
「……そんなことないです」
微妙な間を持った返事に、福田はのどの奥で、くくっと笑う。正直になればいいのに。
「女つーのは、甘いものには目がねえのなー」
「そういうものなんです」
笑われた理由がわかっているのか、蒼樹は開き直ってつん、と上を向く。開き直りと素直なのは違うけどな、と福田は笑いながらスプーンでプリンを掬う。
「ま、男だってそうともいえるけど」
「何ですか?」
「甘いものが好きだっていう話」
甘いだけじゃつまらないが、こういう甘い雰囲気が嫌いなわけじゃない。男だって単純に甘いものが好きだ。ふわふわしてクリームみたいに、そしていちごのように甘酸っぱくて、そういちごのショートケーキみたいな、そんな甘いものが男だって好きだ。それにコーヒーみたいなたまには苦い思いもするかもしれないが、それはそれ、男女のつきあいなんて、甘いだけが全てじゃない。
「ほらよ」
スプーンに乗せられたプリンを、蒼樹の小さな口の前に差し出した。
PR
Special thanx
About
sunday morning

http://3daymorning.3rin.net/
iwanoriojisan-webtool★yahoo.co.jp
http://3daymorning.3rin.net/
iwanoriojisan-webtool★yahoo.co.jp
