サンライズ
息が真っ白だ。ダウンジャケットの中は何枚もヒートテックを重ねて、フリースも着込んだ。薄くても暖かい服が多いから、着ぶくれしないで済むのはうれしい。
同じようにダウンジャケットを来た福田と共に、砂浜に腰を下ろした。海風は想像していたよりも寒かった。
マフラーに顔を埋めて、鼻の頭と頬が寒さで真っ赤になっている。
ここまでバイクをはしらせて来た。
年越しはお互いに別々に過ごしたあと、蒼樹を迎えに行って、そのまま高速に乗った。途中サービスエリアに寄ることもせず、ノンストップでバイクを運転してきたから、顔が赤くなって当然だ。
寒そうにますます首を縮み混ませる福田を見ながら、蒼樹はポケットから缶コーヒーを取り出した。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
缶コーヒーを受けとると両手で抱え込むように握った。
「あったけー……」
冷えた指から缶コーヒーの温かさが伝わって、じんじんと痛くなってきた。頬や鼻先になで擦る。
その行為を見ていた蒼樹は、ふふ、と笑った。
「寒いなかありがとうございます。」
「いーえ。俺が連れていきたかったので。」
福田がまだ暗い海の先を見ながら、赤くなった鼻を擦って言った。蒼樹が見る福田の横顔には、寒さで目が潤んでいる。照れ隠しに蒼樹を直接見ないにだとわかっているから、蒼樹も照れ臭くなった。
「私ホッカイロ持ってきましたけど、使います?」
「まじで? いいの?」
「二個持ってきたので」
どうせそういうものは持ってこないだろうと思っていたから丁度よかった。蒼樹は左のポケットからホッカイロを取り出すと、福田のダウンのポケットに入れた。
静かに波が砂浜に押し寄せる。
ザアンザアンと白波が寄せるのをじっと見つめていた。吐き出す息は真っ白だ。
身体を縮こませる福田との隙間を埋めるようと、身体を寄せた。それに気づいた福田が
「なに?」
と、声を発さずに聞いてきたような気がしたので、えへへと
「寒いから」
と笑って言った。二人して小さく笑って、寄せあった身体を密着させた。押しくらまんじゅうするように押し付けあって、とうとう声を出して笑いあった。触れあった指先で、お互いに自然と手を繋いだ。
話をしなくても楽しかった。
初日の出を見に行こうと福田から誘われたとき、すごく嬉しかった。電話越しの福田の声はちょっと緊張しているみたいに、蒼樹の反応を伺っていて、蒼樹はどきどきしてどもりながら「いいですよ」と快諾した。
海風で寒くても、平気だった。
「あ!」
「お!」
「出てきました!」
まだかな、と思った矢先地平線がうっすらと染まりだした。
太陽の強大な力に引かれるように雲が細く引かれ、温度が急激に冷え込んでくる。引力に引かれ、太陽の魅力にとりつかれたように見いった。隣で福田がケータイのカメラで写真をとったのだろう、カシャッとシャッター音が聞こえてきた。それには目もくれず、自然と立ち上がって打ち寄せる波に近づいた。
靴先が波に濡れるのも構わずに太陽に引かれていった。
「おーい。濡れるぞー」
福田がそういうのが聞こえていないのか、聞く気がないのか、蒼樹はブーツの靴先を波の泡に濡らしながら、大きく息を吸った。
「ん?」
綺麗な新年の幕開けに、一言言っておきたくなった。言うというより、叫んでおきたくなった。
それは宣誓のようであった。
蒼樹はせーのと心の中で合図を出すと、海に向かって大声を張り上げた。
「今年もよろしくお願いしまーす!」
こんなに大声を出したことなんて人生の中でほとんど経験がない。慣れない発声は、最後の方はかすれ声になったけれど、すごく満足だった。
クルリと振り返ると、目を真ん丸にした福田が蒼樹を凝視していた。
福田の表情に、してやったりと蒼樹はにやりと得意げに笑った。
福田は立ち上がるとゆったりと蒼樹の隣まで歩いてきた。そうして、すぅっと息を吸い、背をのけぞると福田も海に向かって叫んでいた。
「つーかー! ずっとよろしくお願いしたいっすー!」
蒼樹の声よりももっとずっと大きくて、腹の底から響く太い声が、蒼樹の体の髄を震わせた。
「それって……」
「どうする?」
隣に立つ福田を見上げていた蒼樹に、冗談でいたわけではないと、真面目な顔で振り返った福田に、蒼樹はこれでもかと目を見開いて両手で驚きで塞がらない口を押さえた。
どうする?なんて、そんな……そんなこと……
「今……?」
「出来ればここで、今すぐ」
返事がほしいと言う福田に、ごくりと唾を飲み込むと、正面を向きなおした。
緊張した雰囲気が隣にたつ福田から伝わってくる。
そんなに緊張しないで、と思う。伝染してきてしまうじゃないか。それとも、こちらの緊張が伝わってしまっているのかも知れない。
太陽は地平線から顔をのぞき、空には極彩色のグラデーションが出来上がっている。本当にきれいだ。
新年の、二人の新しいスタートに相応しい。
もう一度だけ意を決すると、蒼樹は叫んだ。
「よろしくおねがいしまーすー」
恥ずかしさなんか吹っ飛ばして、蒼樹は絶叫する。
この海に、太陽に大地に、誓う。
幸せになろう、二人でと。
「いよっしゃーー」
「きゃああああ!?」
抱きついてきた福田の勢いに、後ろに倒れこみそうになった。くぐもった声で、
「やべえ……めっちゃ泣きそう」
なんて、福田が言うので、蒼樹は表情を揺るまでながら、
「笑ってください」
といった。
太陽が完全に昇りきる。二人の新しいスタートの始まりだ。
同じようにダウンジャケットを来た福田と共に、砂浜に腰を下ろした。海風は想像していたよりも寒かった。
マフラーに顔を埋めて、鼻の頭と頬が寒さで真っ赤になっている。
ここまでバイクをはしらせて来た。
年越しはお互いに別々に過ごしたあと、蒼樹を迎えに行って、そのまま高速に乗った。途中サービスエリアに寄ることもせず、ノンストップでバイクを運転してきたから、顔が赤くなって当然だ。
寒そうにますます首を縮み混ませる福田を見ながら、蒼樹はポケットから缶コーヒーを取り出した。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
缶コーヒーを受けとると両手で抱え込むように握った。
「あったけー……」
冷えた指から缶コーヒーの温かさが伝わって、じんじんと痛くなってきた。頬や鼻先になで擦る。
その行為を見ていた蒼樹は、ふふ、と笑った。
「寒いなかありがとうございます。」
「いーえ。俺が連れていきたかったので。」
福田がまだ暗い海の先を見ながら、赤くなった鼻を擦って言った。蒼樹が見る福田の横顔には、寒さで目が潤んでいる。照れ隠しに蒼樹を直接見ないにだとわかっているから、蒼樹も照れ臭くなった。
「私ホッカイロ持ってきましたけど、使います?」
「まじで? いいの?」
「二個持ってきたので」
どうせそういうものは持ってこないだろうと思っていたから丁度よかった。蒼樹は左のポケットからホッカイロを取り出すと、福田のダウンのポケットに入れた。
静かに波が砂浜に押し寄せる。
ザアンザアンと白波が寄せるのをじっと見つめていた。吐き出す息は真っ白だ。
身体を縮こませる福田との隙間を埋めるようと、身体を寄せた。それに気づいた福田が
「なに?」
と、声を発さずに聞いてきたような気がしたので、えへへと
「寒いから」
と笑って言った。二人して小さく笑って、寄せあった身体を密着させた。押しくらまんじゅうするように押し付けあって、とうとう声を出して笑いあった。触れあった指先で、お互いに自然と手を繋いだ。
話をしなくても楽しかった。
初日の出を見に行こうと福田から誘われたとき、すごく嬉しかった。電話越しの福田の声はちょっと緊張しているみたいに、蒼樹の反応を伺っていて、蒼樹はどきどきしてどもりながら「いいですよ」と快諾した。
海風で寒くても、平気だった。
「あ!」
「お!」
「出てきました!」
まだかな、と思った矢先地平線がうっすらと染まりだした。
太陽の強大な力に引かれるように雲が細く引かれ、温度が急激に冷え込んでくる。引力に引かれ、太陽の魅力にとりつかれたように見いった。隣で福田がケータイのカメラで写真をとったのだろう、カシャッとシャッター音が聞こえてきた。それには目もくれず、自然と立ち上がって打ち寄せる波に近づいた。
靴先が波に濡れるのも構わずに太陽に引かれていった。
「おーい。濡れるぞー」
福田がそういうのが聞こえていないのか、聞く気がないのか、蒼樹はブーツの靴先を波の泡に濡らしながら、大きく息を吸った。
「ん?」
綺麗な新年の幕開けに、一言言っておきたくなった。言うというより、叫んでおきたくなった。
それは宣誓のようであった。
蒼樹はせーのと心の中で合図を出すと、海に向かって大声を張り上げた。
「今年もよろしくお願いしまーす!」
こんなに大声を出したことなんて人生の中でほとんど経験がない。慣れない発声は、最後の方はかすれ声になったけれど、すごく満足だった。
クルリと振り返ると、目を真ん丸にした福田が蒼樹を凝視していた。
福田の表情に、してやったりと蒼樹はにやりと得意げに笑った。
福田は立ち上がるとゆったりと蒼樹の隣まで歩いてきた。そうして、すぅっと息を吸い、背をのけぞると福田も海に向かって叫んでいた。
「つーかー! ずっとよろしくお願いしたいっすー!」
蒼樹の声よりももっとずっと大きくて、腹の底から響く太い声が、蒼樹の体の髄を震わせた。
「それって……」
「どうする?」
隣に立つ福田を見上げていた蒼樹に、冗談でいたわけではないと、真面目な顔で振り返った福田に、蒼樹はこれでもかと目を見開いて両手で驚きで塞がらない口を押さえた。
どうする?なんて、そんな……そんなこと……
「今……?」
「出来ればここで、今すぐ」
返事がほしいと言う福田に、ごくりと唾を飲み込むと、正面を向きなおした。
緊張した雰囲気が隣にたつ福田から伝わってくる。
そんなに緊張しないで、と思う。伝染してきてしまうじゃないか。それとも、こちらの緊張が伝わってしまっているのかも知れない。
太陽は地平線から顔をのぞき、空には極彩色のグラデーションが出来上がっている。本当にきれいだ。
新年の、二人の新しいスタートに相応しい。
もう一度だけ意を決すると、蒼樹は叫んだ。
「よろしくおねがいしまーすー」
恥ずかしさなんか吹っ飛ばして、蒼樹は絶叫する。
この海に、太陽に大地に、誓う。
幸せになろう、二人でと。
「いよっしゃーー」
「きゃああああ!?」
抱きついてきた福田の勢いに、後ろに倒れこみそうになった。くぐもった声で、
「やべえ……めっちゃ泣きそう」
なんて、福田が言うので、蒼樹は表情を揺るまでながら、
「笑ってください」
といった。
太陽が完全に昇りきる。二人の新しいスタートの始まりだ。
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